若気の至りでただ走る、芥川賞作家の羽田圭介「走ル」、自転車本読書

走ル (河出文庫)
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先日の芥川賞の発表で、受賞者となった著者の作品。
すっかり又吉に話題を持っていかれているが、
もう一人の受賞者である羽田圭介の「走ル」が自転車の話しとあって俄然注目、読んでみた。

主人公の僕は高校二年生、
陸上部でそこそこ速くて部活に勤しむ普通の高校生。
ある日、
父親の自動車が修理から戻って来た時にトランクから自転車の三角ポーチ(サドルバッグ)が出てきたのを渡された。
それを見てふいに過去近所のお兄ちゃんから譲り受けた「Bianchi」のロードを思い出して、
そのまま乗れるまで整備して乗って陸上の練習に出かけた。
ママチャリしか乗った事のなかった僕は初めて乗ったロードレーサーの軽快さにとりこになる。
”路面がタイヤに吸い付いている”
まさにその感覚を味わう事で自転車で速く遠くへ走ル事に目覚めてしまった。
皇居での周回練習の休憩に、
少し飲み物を買うだけの間に練習を抜けたところで僕は魔が差した。
「いいのか?え!いいのか!」
僕は叫んで国道4号線を北上した。


この時期の高校生でついつい思いつきで普段の生活のサイクルを離れて、
ちょっと冒険的に家出したりしてしまう衝動ってあるんだろうな。
少々ジュブナイルで作者の経験も混ざった思いつきの話し。
話しの舞台としては15年くらい前を想像すると良いだろう。(小説の初出は2008年)
主人公(おそらく著者の経験)からツール・ド・フランスでランスが活躍した後くらい。
作中にも僕とランスを重ねあわせて、きつい場面こそギヤを掛けて踏み込んで行けと出てくる。

何となく走っていたら次の街への道路標識を見つけて、
さらに知らない街へと自分で地図を作って行く感覚、
自転車でロングライドをする感覚の共有するものを上手く表現している。

著者のアスリートな感性かハンガーノックに陥った主人公の描写も挿入される。
長距離の陸上では体感しなかった様で、
自転車に乗ってどこまでも走ってしまう事で初めて体感したという。

僕はコンビニやスーパーで食事を摂りながら野宿や温泉施設で夜を明かし、
さらに新潟を経てさらに北上する。

お話の中で携帯電話を時折気にしながら、
友達や恋人にメールをしながら嘘を付いて体裁をつくろう辺り、
完全な冒険では無く若気の至り的な思いつきの旅なのを思い出させる。

台風が去って暴風雨の中でも走ってさらに北上して青森まで走る。
若いから体力だけはある。
この自暴自棄な感じと言うか勢いだけはあるのがこの年の特権だろうか。
道中考えている事は学校の事だったり恋人の事だったり同窓会であった鈴木さんの事だったり。
ずっとメールのやりとりを休憩の度にしているところが唯一現実との繋がりで肝だ。

物語の後半でついに青森まで到着した僕が、
さあこの先は北海道だとフェリー乗り場に行くのだが…


旅の道中の描写は実際の道の駅だったり、
その時の天気や温度の描写がまさに走行レポートみたいで、
これを小説と思って読んでいる事に違和感を感じた。
もしかして著者の実際の経験かな?半分はそうだろう。
ロングライダースの走行レポートの様に読めば楽しめる。

小説として仕立てる部分にちょっとした最後の落ちがあるが、
それは物語の中での些細な事。
落とし所としては弱いが走行レポートと考えたら秀逸。
いつの時代も若かろうと老いていようとこの思いつきの冒険心は持っていたいもの。

そんな若さの勢いを求めて読むにはお勧めの本書であった。





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